ご案内

一九八六年八月一一目から一八日まで、村議会の社会委貝長と村役場の住民課長とがスリランカに派遣されたときも、T結婚相談所のツアーに同行して、国際結婚事情の調査をした。
その結果、同年一〇月一八日に青木村福祉会館で催された国際結婚合同披露宴は各種のメディアで大きく報道され、スリランカ花嫁導入が県内で急展開するためのテコとなったのである。
これに力を得て、その野心的な結婚相談所は、一度に二〇名前後の花嫁候補をまとめて来日させる方式に転換した。
農家の結婚希望者かシンハラ語の名前を覚えるのはむずかしいと、胸に番号をつけさせる。
この方式だと、より多くの男性に見合いさせることができる。
旅券や航空券を預かり、現金を渡さないので、シンハラ少女たちのほうから見合いの男性を断わる心配がなくなる。
そのうえ、男性のほうは婚姻手続きのために一度だけコロンボへ行けばよいので経費は安上がりである。
一六歳から一九歳の年齢層が多いシンハラ少女たちは、四〇歳代の日本人男性ではなく、「もっと若い人と結婚したい」と私に訴えていた。
しかしながら、断わるなら帰国旅費を自己負担しろといわれるので、選んでくれた男の家に行くよりしかたがないそうである。
「日本へ来て初めて、貧乏のつらさを思い知った」となげく声が印象的であった。
さまざまな事情を抱えた男のほうで、思い迷って結論を出せないケースも少なくない。
三ヵ月たっても話がまとまらなければ、観光査証で来ているシンハラ少女たちは、在留を延長することが困難である。
帰国せざるをえなくなる。
この比率が高くなると、その分だけ収益性が低くなり、『輸入』仲介業者の経営を圧迫する。
そこで、T結婚相談所では、国際結婚によって得た利潤でスリランカに電子部品工場を建設することによって、経営の革新を図ろうとした。
この工場で働く予定の若い女性に、日本で技術研修を受けさせる事業を始めたのである。
一九八七年九月以降、五〇名をこえるスリランカ女性が長野県内の電子部品工場(六ヵ所)で働いていた。
工場の近くに宿舎がある。
衣食住などの生活手段は、現物で供与されているが、現金の賃金は支払われていない。
技術研修という名目であれば、日本の労働法の適用を受けずに就労できる。
しかも、農村の小さな部品工場で働く日本人男性は、兼業農家であることが多い。
安価な労働力の搾取のみならず、国際結婚の仲介料を得る可能性も開かれる。
国際結婚と技術研修を組み合わせる経営の多角化によって、若いアジア人女性を集団的に来日させることの経済性が、格段と向上したのである。
「一年間五〇組の国際結婚と、五〇名の技術研修とによって、南の貧しい国を助けている」というのが、私のインタビューに答えたT結婚相談所長の誇りでもあった。
このような経営革新によるめざましい成功に刺激を受け、長野県を中心にして、スリランカからの花嫁『輸入』が急速に拡大した。
目本の人口統計を全体的にみると、女性の数が男性より多い。
しかし、戦後生まれの若年層に限ると、男性の比率のほうが高い。
若い世代になればなるほど、子どもの数が少なくなり、しかも男の子が多くなる傾向にある。
過疎地における花嫁輸入は、会社主義の解体を一時的にしのごうとしているのである。
しかし、逆説的であるが、会社中心社会を温存しようとして始めた花嫁輸入事業が、会社主義そのものを破壊する可能性を秘めている。
N氏のような東京にいる指導者がいかに単一民族の優秀性を強調しようと、辺境から多民族が形成されていくからである。
海を越え、国境を越えて、女と男が結ばれ、新しい世代を生み、育ててゆくことが、もっとも直接的であるとともに自然で人間的な営みである。
公権力を形成する国際交流基金や国際協力事業団の仕事が、とうてい対抗することのできないような、諸民族の真の交流を担っているといってさしつかえない。
農村社会の閉鎖性を打破し、アジア諸地域とのネットワークを形成する。
多民族による多言語社会を生み出し、海外の異文化を根づかせる。
衣食住から宗教生活まで、多様な価値が尊重されるようになる。
日本農業の経済的な再建がアジア人女性の協力によっておこなわれる。
国家間の交流とはまったく別に、地域間や民衆間の交流が盛んになる。
アジア人花嫁の来日がもたらすであろう、積極的な意義を要約すれば、以上のとおりである。
しかし、その反面として、否定的な側面もあわせて検討しておかねばなるまい。
短期的には、むしろ否定的な諸困難をいかに克服するかがもっとも大きな課題となるにちかいない。
その課題の根底には、アジア人花嫁が「商品」として扱われている事実がある。
あらゆる社会関係のなかで、男と女の関係は、もっとも人間的であると同時にもっとも自然な直接性を、あわせもっている。
この直接性を「商品」という媒介性で置き代えようとするビジネスには、根本的な無理がある。
女と男の関係は、ほんらい商品関係の対極に位置するからである。
国際結婚であれば、日本人同士の結婚以上に、より自立した当事者の人格的な結合が重要である。
だからこそ、国内の結婚斡旋産業以上に、社会関係の商品性を剥ぎとり、もっと人間的な、もっと自然な、もっと直接的な交流を追求する必要がある。
これに劣らず重要な課題は、「輸入」される花嫁の人権を尊重する思想や制度的な枠組みをつくることである。
現状では、公私両部門において、嫁不足という「輸入」する側の論理だけがあまりにも一方的に突出している。
若い健康な女性を送り出すだけの地域や、そこに残された若者に対する配慮がなさすぎるのである。
アジア人花嫁を日本社会に同化させることにのみ性急であり、彼女たちの固有の文化を無視しすぎているのである。
婚姻の手続き、別居や離婚の相談、財産の相続や処分、研修や就職の労働条件、生まれた子どもの国籍や学校の教育など、社会生活のあらゆる分野で差別を受けることのないよう、社会環境の整備と地域住民の協力体制が不可欠であろう。
在日外国人の人権をまもるために、できるだけ早く「人種差別撤廃条約」を批准し、それに付随する立法措置や行政改革をおこなうことが望まれる。
日本の農村に定住した花嫁たちは、生まれ育った環境や社会から切断されている。
言葉や習慣もわからず、孤立しがちである。
困った問題に直面したり、虐待を受けたりしたときに、未成年の少女たちが相談したり、人権を擁護してくれる機関を探すことは容易でない。
わずかに、同国人の留学生などに、その苦難を訴える声が届いている程度である。
日本語ができないので、電話のかけ方や郵便物の出し方さえ知らない花嫁もいる。
「夫の外出中は、狭い部屋に閉じ込められ、外から鍵をかけられている」という一六歳の花嫁の訴えをきいた留学生も、その少女の将来を考えればどのような対策があるのか答える言葉に窮したそうである。
南の花嫁を迎えた過疎地のハッピーな物語だけを語り、異国から来た花嫁の人権を無視してよいとはいえない。
たとえ「商品」として「輸入」されたとしても、現実には人間として異文化と格闘している花嫁たちに、なによりも必要なことは、日々の困った問題を相談できる場をつくることであろう。

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